2013年2月19日

チェックマークつけるだけならやめちまえ!


レオニー・ワトソン(Léonie Watson)さんが、Government Digital Service のブログで物議をかもしそうな記事を掲載したのは、2月11日でした。この人は、GOV.UK サイトのアクセシビリティコンサルタントで、英国の BS8878 Web Accessibility Code of Practice の共同執筆者でもあり、標準化の活動も活発にされているアクセシビリティの専門家です。

その記事の粗訳をしてみたので、読んでみてください。

GOV.UK アクセシビリティ:チェックマーク作業の向こう側 by レオニー・ワトソン 2013年2月11日  
原文
http://digital.cabinetoffice.gov.uk/2013/02/11/beyond-box-ticking/ 
GOV.UK サイトからアクセシビリティ宣言を消してしまおうと決断したのは昨年のことだ。この決断が、アクセシブルにするという公約を求めている団体に間違ったメッセージを送ってしまっているのではないかと、今週尋ねられた。そろそろこの問題について考え方を共有しておいたほうがよさそうである。
2011年8月に GOV.UK で仕事を始めたころにトム・ルーズモアがこんな風に書いている。 
「俺たちはかつてないほど政府のウェブサイトを使いやすく、アクセシブルにしたい。ちょいと『アクセシブル』とチェックマークをつけるだけではだめなんだ。」 
このことについて考えれば考えるほど、アクセシビリティへの取り組み方を変えなければならないと自覚していった。 
私たちはアクセシビリティを年に1度の適合性認証や目標の宣言のようなものにしたくなかった。次の作業に移る前に、ただチェック印をつけて行くというようなことではダメだと考えていたのだ。付け足しのようなものではないと考えていたし、ほとんどのメンバーは将来いつかちゃんとできますよと約束するようなものではないと考えていたのである。
我々はただ GOV.UK を可能な限りアクセシブルにしたかったのだ。それゆえに、インクルーシブデザインが我々のデザイン原理のひとつなのである。そしてそれがアクセシビリティをなぜすべての人の責務であると考え、アクセシビリティガイドラインに従い、高齢者と障害者とともにすべてをテストを実施する根拠である。 
アクセシビリティ宣言のこの論点に立ちかえってみよう。それは、アクセシビリティをGOV.UKの基礎部分にしたいのなら、すべての他の基礎的な部分と同じように扱うべきであるということである。クリエイティブなデザインや技術的価値、ユーザフレンドリーであることを宣言しないのであれば、なぜアクセシビリティだけが宣言なのか?
2006年から続けてきた研究では、たいていのアクセシビリティ宣言は期限切れになっているか、さもなくば不正確な情報を含んでいるということがわかっている。GOV.UK を立ち上げたときには、アクセシビリティ宣言を公開したくなかった。そして、実際に GOV.US の日々の更新にあわせて維持することはできないことを実感していた。 
最後の決断は単純だ。GOV.UK がアクセシブルであるか宣言を見なければならないようではだめなのだ。アクセシビリティで必要とされることは、人によって異なっている。そして、あなたにとってアクセシブルかもしれないし、そうではないかのどちらかなのだ。(そして、もしダメなら改善するので、お知らせいただきたい)

どうでしょうか。GOV.US ではアクセシビリティ宣言はしないと言っているだけではなく、細かいところは使えなかったら言ってくださいという、さじを投げたような文末。

でも、実際にWebアクセシビリティのチェック作業をしたことがある人なら、ただExcelシートにマルを書いているだけになっていないか?と感じたことがあるでしょう。毎日更新される全ページをチェックするということになれば、作業は大変です。CSSテンプレートを書き変えてしまったら、CMSのテンプレートHTMLを書き変えた後には、すべての既存ページを確認し直すのでしょうか?

あなたが本当にただ何も考えずにチェックマークをつけているだけの悪徳業者なら、逆にそんなことは微塵も感じないでしょう。しかし、まじめにチェックしよう、本当に使いやすくしようと真剣な人ほど、こんな悩みがあるのではないかと思うのです。

幸運なことに、日本では WAIC という団体がアクセシビリティの確認のために標準的な方法を示したり、総務省が開発した miChecker などが使えます。また、全数チェックではなく、サンプリングして確認する方法も JIS X8341-3:2010 には示されているのです。CMSもアクセシビリティを確認するさまざまな機能が盛り込まれた、優れた製品が増えています。

アクセシビリティの宣言でさえ、「ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン」という文書がWAICから提供されていて、このテンプレートを使えば、普遍的な宣言をすることが可能です。

Webアクセシビリティの進んだ国であると思っていた英国政府の担当者が、こんなことをブログに書いてしまうとは!と最初は思いました。しかし、よく見れば GOV.UK はスマートでなかなか良くできたサイトです。そんなよくできたサイトのアクセシビリティ担当の声だから、なんだか気持がわかる気がするのです。ユーザからの声で改良しますという締めの言葉は、放り投げたようでもあるけれど、ちゃんと苦情は受け付けますよという意思表示とも受け取れるわけです。

チェックマークつけるだけならやめちまえ!」というこの記事のタイトルは、アクセシビリティの検証作業が形骸化することの自戒として自分自身に浴びせた言葉です。すこし刺激的すぎたかもしれませんね。

ただし、box-ticking 作業をもっと効率化しないことには、ここから先へは進めない気がするのも事実です。そんなことを深く考えさせられる記事でした。

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