2013年8月26日

JIS X 8341-3:2010 「第三者によるコンテンツ」とは何か?

WCAG2.0 には、「部分適合に関する記述 - 第三者によるコンテンツ」、JIS X8341-3:2010 には、「8.1.3 第三者によるコンテンツにおける例外」という概念がある。注意深く読めば、JIS X8341-3:2010 の該当個所は、WCAG2.0 の箇所と同じであることはすぐわかる。細かい言い回しは JIS 流儀になっているものの、考え方は同じである。WCAG2.0では「部分適合」が可能であるという説明になっているのに対して、JISでは試験方法で説明されており、これは試験を行う時に第三者のコンテンツを例外的に除外してよいと言っているだけである。もちろん、除外してよいと書いてあるのだから試験結果がOKなら、該当する達成基準を満たしていると言ってもよいわけだ。

たとえば掲示板のようなシステムを作るとしよう。その掲示板システムはWebサイトを公開した時点では記事は投稿されていない。そこに絵文字のような記事が書かれるかもしれないし、アスタリスクを用いてテキストで棒グラフを書く人もあらわれるかもしれない。Webメールのようなシステムでも、どんなメールが届くかわからないのだから、対応のしようがないし、こういったシステムでコンテンツの内部にまでアクセシビリティを保証するのは無理だ。現実的ではない。

WCAG2.0やJIS X8341-3:2010 が想定していたのはこのようなシーンだった。しかし、Webはマッシュアップの時代になった。第三者のコンテンツばかりで構成されたWebサイトはもはや珍しくない。そんな時代にこの概念をどう理解すべきであろうか?

マッシュアップで何かのコードをWebに埋め込む場合、そこにはコンテンツが含まれると同時にUIも含まれる。たとえば、Youtube のビデオをページに組み込めば、ビデオそのものだけだはなく、Youtubeのビデオを再生し操作するためのUIも組み込まれることになる。ここで問題になるのが、UI、そしてビデオ本体が第三者コンテンツとして例外扱いできるかどうかだ。

Youtube の コンテンツとUIを説明する図



思い出してもらいたいのだけれど、WCAG2.0やJIS X8341-3:2010 には例外扱いする方法が記されている。1つ目はこれだ。

a) 試験は,分かる範囲で実施することができる。第三者によるコンテンツが監視されていて,2 営業日以内に修正される(適合していないコンテンツが削除されるか,適合するように修正される。)場合には,その第三者によるコンテンツにおいて問題があったとしても,そのウェブページは適合しているとみなすことができる。ただし,適合していないコンテンツを監視・修正できない場合には,適合しているとはいえない。

これは、第三者コンテンツを監視して2営業日以内に修正することを求めている。この対応が本来求められるスタイルだろうけれど、容易ではないというのは明らかだ。いきおい、2つ目の方法に進むことになる。

b) 特定された部分を除外して試験を行ってもよい。そのような場合,8.3 に従って,“ウェブページ全体としては試験していないが,次の第三者によるコンテンツを除いてアクセシビリティ達成等級X で試験を行った。”というような例外事項の記述を行うことができる。ただし,このような例外が認められるのは,次のすべての条件を満たす場合に限る。
1) コンテンツ制作者が監視・修正できるコンテンツではない。
2) 利用者が識別できるように,例外を適用する箇所が明確に説明されている。

こちらはどうか。2) の識別できるようにするというのは、該当するページで箇所を明確に説明しておけばいいだけだから問題はないだろう。問題は、「コンテンツ制作者が監視・修正できるコンテンツではない」といえるかどうかだ。

まず、コンテンツの問題。

たとえば、全く知らない人が作成したビデオをWebページに掲載する場合には、それは第三者のコンテンツであると言える。しかし、それは固定されたある特定のビデオであり、そのビデオがWCAGやJISを満たすかどうかは検証(試験)可能である。したがって、このような場合には第三者の例外は当てはまらない。一方、キーワードを用いてランダムにビデオが再生されるシステムならどうだろう。これは、何が起こるか予測不可能で第三者の例外にするのがふさわしい。もちろん、自分で作成してYoutubにアップロードしたビデオは第三者ですらない。

次に、UIの問題だ。たとえば、Youtubeのビデオを再生するUIがWCAGやJISを満たさないと仮定しよう。確かに、UIのコードは第三者から与えられたものである。しかし、それは検証(試験)可能だから除外する理由にはならないと考えるべきだろう。Youtubeを再生する別のソリューションを利用することも可能だし、新たに開発して提供することさえ技術的には可能だからだ。選択肢がないわけではない。

JIS X8341-3:2010 の「8.1.3 第三者によるコンテンツにおける例外」とは、一言でいえば「第三者が提供するために試験できない、あるいは試験しても変化してしまう」コンテンツを試験の対象から外してもよいと言っているだけである。今だったら、「第三者のコンテンツなのでどうなるかわからないし試験もできない場合の例外」とでもタイトルをつけたに違いない内容だ。

どうも最近、「第三者のものは除外できる」という誤った理解が進んでいる気がする。たとえば、あるサイトには次のような記述がある(名誉のために、あえて伏す)

JIS X 8341-3 8.1.3(第三者によるコンテンツにおける例外)
  • 修正用データが無いコンテンツ
  • 添付ファイル(PDFファイル等の添付ファイルに関しては運用の事情により等級Aを満たすことに努めることとする)
  • Googleマップを使用しているページ

これらはどれも試験の例外にはそぐわない。

もちろん、当面の策としてそういったややこしいページを除外して 取り組みやすいところからJIS X8341-3:2010 対応を始めるということは現実的な選択で、それを責めるつもりはない。けれど、「第三者によるコンテンツにおける例外」は本来、試験結果に付すべきものであって、ここで例示したようなものは、JIS X8341-3:2010 「6.1 企画」で述べられたウェブアクセシビリティ方針に属することではないかと思う。